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山口地方裁判所 昭和27年(行)6号・昭26年(行)36号 判決

原告(反訴被告)と防府油脂工業株式会社との間において、昭和二十六年六月九日になした、原告(反訴被告)が右会社に対し有する同日貸付の貸付金五十七万九千四十円の貸金債権を右会社が同年七月十日までに支払はないときは、右会社は代物弁済としてその所有の別紙目録記載の土地の所有権を原告(反訴被告)に移転するとの代物弁済契約はこれを取消す。

原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し右土地について山口地方法務局徳山支局昭和二十六年八月十三日受附第四、四三七号をもつてなされた右契約に基く所有権移転登記の抹消登記手続をしなければならない。

原告(反訴被告)の請求は棄却する。

本訴及び反訴の訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。

二、事  実

原告(反訴被告以下単に原告と略称する)訴訟代理人は本訴について「被告は別紙目録の記載の土地に対し昭和二十六年六月二十日防府油脂工業株式会社に対する滞納処分としてした差押登記(山口地方法務局徳山支局昭和二十六年六月二十日受付第三六五七号)の抹消登記手続をしなければならない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めると申立て、反訴について「被告(反訴原告以下単に被告と略称する)の請求を棄却する。」との判決を求め、

本訴請求原因並に反訴の答弁として、

一、訴外防府油脂工業株式会社は本件土地を昭和二十五年八月二日国から買受け、その所有権取得の登記は同二十六年六月十五日に了した。

二、原告は右訴外会社が昭和二十五年八月二日本件土地を国から買受けるに際し、同日同会社に対し右買受代金五十七万九千四十円を期限の定めなく貸付け、同日又はそれ以前に、右訴外会社が右原告の貸付金を返済しないときはその弁済に代えて本件土地の所有権を原告に移転する旨の代物弁済の予約をなし、次いで同二十六年六月九日右貸付債権五十七万九千四十円を目的として弁済期を同年七月十日とする旨の準消費貸借を結び、右弁済期までに、右訴外会社が債務を履行しないときは弁済に代えて本件土地の所有権を原告に移転する旨の契約を締結した。

三、そして原告は昭和二十六年六月十九日代物弁済の予約を原因とする所有権移転請求権保全のため原告名義への所有権移転の仮登記(山口地方法務局徳山支局受付第三、六三三号)を経由した。

四、訴外徳山税務署長は右仮登記後の昭和二十六年六月二十日右訴外会社に国税の滞納があるとして滞納処分として本件土地を差押えその旨の登記(同支局受付第三、六五七号)を経由した。

五、ところが右訴外会社は弁済期に到つても原告に対しその債務の履行をしないので、原告は右訴外会社との昭和二十六年六月九日の約旨に基き同年七月十一日本件土地の所有権の移転をうけ、同年八月十三日所有権移転の本登記(同支局受付第四、四三七号)を了した。

六、以上のように原告は本件土地について代物弁済の予約を原因とする仮登記をし次いで本登記を了し、その仮登記は徳山税務署長のした差押登記より先順位であるから不動産登記法第七条により原告に対する所有権移転の本登記も右仮登記の順位に従い右差押登記より先順位となりこれに対抗できる所有権を主張することができるのである。

七、それで原告は同年八月十四日右徳山税務署長に対し国税徴収法第十四条による差押財産の取戻方申出で、更に同月三十日同署長の許に出頭具陳したが、同署長は右差押を解放しないので、所有権に基ずき右差押登記の抹消手続を求めるため本訴に及んだと述べ、尚

八、徳山税務署長の右差押に対し再調査、審査の請求手続は経ていない。

九、代物弁済予約を原因とする仮登記が遅れたのは、右訴外会社の本件土地の所有権取得登記が昭和二十六年六月十五日までできなかつた事情によるものである。

一〇、訴外会社が原告と前述のような代物弁済契約をしたのは、同会社は国から買受けた本件土地の買受代金を毫も出金せず全部原告が出金したので原告の右出金を決済しなければ実質上訴外会社の所有とはならないからであつて、同会社に対する滞納処分を詐害するためにしたものではない。と附陳し、被告の主張事実中、第二、の一、の(一)の譲渡禁止の特約は否認し、仮に特約があつたとしてもそれは譲受人である原告には対抗できない。第二、の一、の(二)の原告、訴外日本油業株式会社、訴外防府油脂工業株式会社間の関係、第二、の二、の右代物弁済の予約が虚偽表示であるとの点並に第三、の事実はいずれもこれを否認し、第二、の二、の(三)(四)(五)(六)(七)の事実は不知と述べた。(立証省略)

被告指定代理人等は原告の本訴請求について

第一、本案前の抗弁として「原告の訴はこれを却下する。」との判決を求め、その理由として、

一、滞納処分に対して異議のある者は国税徴収法第三十一条の二乃至同条の四により所定期間内に再調査、審査の請求手続を経なければ訴を提起することはできないものであるが、原告は右の手続を経ていないから所謂訴願前置の要件を欠き不適法である。

二、本訴は行政処分の取消を求めるものであるから、行政事件訴訟特例法第三条により、当該処分をした徳山税務署長を被告とすべきで、処分庁でない国を被告とした本訴は不適法であると述べ、

第二、本案について主文第三項同旨の判決を求め、答弁として、

原告の主張事実中一、四、七、の事実及び三、の仮登記、五、の本登記のあることは認めるが原告訴外防府油脂工業株式会社間にされた代物弁済予約の時期については争う。

一、原告、訴外防府油脂工業株式会社間の本件土地の代物弁済の予約は昭和二十五年八月二日又はそれ以前ではなく、同二十六年六月九日にされたものである。即ち、

(一)  本件土地は昭和二十五年一月七日付契約により訴外防府油脂工業株式会社が国から買受けたものであるが、右契約には買受人である右訴外会社は買受後十年間は国に無断で使用目的を変更、廃止して

はならず、右に違反した場合は国は無条件で右契約を解除できる旨の所謂譲渡禁止の特約が存していた。本件土地はもと旧海軍第三燃料廠及び呉海軍軍需部徳山支部の敷地の一部であつたもので、払下げについては旧軍用地における産業奨励の見地から、軍解体後の利用関係、買受人の使用目的等を考慮して随意契約によることになつたので、買受人が買受後買受物件を転売その他の処分により現実に使用しないことになれば右払下げの趣旨に違反するし、又随意契約は競争入札の場合に比し著しく安価に払下げられるので買受人が転売の利益を得ることを防止するため右の特約が附されたのである。右訴外会社は廃油の再製等を主要目的とする会社で、国から本件土地の払下を受ける前から一時使用を許され、これをその業務のため使用していたのでその買受人に選定されたものである。従つて右訴外会社が本件土地を代物弁済に供した場合は、右契約条項違反として国から売買契約を解除されるおそれがあるのに、同会社がその危険を侵してまで代物弁済の予約をその買受当時に締結することは到底あり得ないし、又国から契約を解除された場合、原告は本件土地の買受代金を国から返還されたとしても、出金後返還時までの金利の損失を考慮すると商人である原告がかゝる代物弁済の予約をなすはずがない。

(二)  右訴外会社は昭和二十五年八月頃は経営不振で本件土地の買受代金も納入できなかつたので訴外日本油業株式会社を通じて原告から右代金の貸与をうけ国に納入したものであるが、当時の右日本油業株式会社と訴外防府油脂工業株式会社及び原告との関係は次のようなものであつた。即ち経営不振な訴外防府油脂工業株式会社の経営を好転させる目的で、原告の取締役である御厨実義、同機部喜一は自ら発起人となり、右訴外会社の事業に関する一切の業務の代行を事業目的とする日本油業株式会社を昭和二十五年七月十九日設立したが、同会社及び訴外会社共に業績振はず遂に日本油業株式会社は同二十六年九月二十七日解散したという関係にあるもので、原告会社取締役御厨、機部等は、右防府油脂工業株式会社が本件土地を買受代金不払のため取得できないことはその払下価額が低廉なため不利益であるので、同人等の日本油業株式会社に対する投資及び同社経営の一環として原告に右買受代金を出金させることにしたと推測することができるのであつて、通常の金銭貸借とことなり、利息、期間の定はなく、債権確保のための担保、代物弁済契約等の方途をもとらず、且これを講ずる必要もなかつたのである。

(三)  原告は本訴において当初昭和二十六年六月九日訴外防府油脂工業株式会社に本件土地の買受代金として金五十七万九千四十円を貸付け、同日代物弁済の予約をしたと主張したが被告が右訴外会社の本件土地買受代金支払は同二十五年八月二日であると述べるや原告は右買受代金貸付の日時は同年八月二日で二十六年六月九日に右貸付金債権を目的として準消費貸借をしたのであると変更し、更に準備手続終結後の口頭弁論期日においては右代物弁済予約の日時を現在原告主張事実のように二十五年八月二日又はそれ以前と再び変更しているのであつて、右主張変更の経緯に照しても原告の貸付当時代物弁済の予約はなかつたことが充分に知られる。

(四)  原告、訴外会社間の代物弁済予約の時期は右の如く日本油業株式会社の財政状態悪化し原告貸付金を防府油脂工業株式会社に代つて弁済することの困難となつた頃即ち昭和二十六年六月九日であつて同二十五年八月二日ではない。

二、原告、訴外防府油脂工業株式会社間になされた右代物弁済の予約は虚偽表示であつて無効である。即ち

(一)  前述第二、の一、の(一)の如く右訴外会社が国から本件土地を買受ける際その契約には所謂譲渡禁止約款が附されていた。

(二)  原告が日本油業株式会社を通じて右訴外会社に貸付けた貸付債権は利息弁済期の定はなく且無担保であつた。

(三)  昭和二十六年六月九日に右貸付金の弁済期を僅か一ケ月に定め、且右期日までに履行しないときは本件土地の所有権を移転する旨の契約をなしているが、この様な契約は鬼高利貸でなければするものでもなく、又右契約によつては右訴外会社の利益は何等存しない。

(四)  訴外会社は国から本件土地と共に買受けた建物四百九十三坪を、その一部は昭和二十六年四月一日金百八十三万円で訴外続木製作所に、残部分は同年八月九日金七十七万二千円で訴外徳山興産有限会社に、共に取崩しを目的に売渡したが、右売却代金合計は約四十五万円、右訴外会社の国からの買受価額よりも高値である。

(五)  本件土地は前述第二、の一、の(一)の如く訴外会社は低廉な価額で買受けたものであるので、昭和二十六年六月当時の時価は約百八十万円に達し、訴外会社の買受価額の約三倍に騰貴している。

(六)  訴外会社の昭和二十五年度上半期(同年四月一日から同九月三十日まで)の決算書によると同会社の負債は合計金八百七十四万千八百三十三円に達し、又昭和二十六年六月十五日現在における国税等滞納額は昭和二十三年度源泉所得税の督促手数料金十円、延滞金三万九千三百八十七円、利子税三千三百二十円、同二十四年度には源泉所得税五十九万千十八円六十銭、法人税八十一万千四百二十二円価額差益金七千三百六十円、同二十六年度には源泉所得税二十一万六千三十一円、合計百六十六万八千五百四十八円六十銭に達し、徳山税務署長は之に対し、さきに同二十五年二月訴外会社所有のギヤーポンプ外十八点の動産及び電話加入権を差押え、又同年十一月二十二日訴外前田茂の訴外会社に対する金五百万円の債権に基く有体動産強制競売の配当に加入したが右二処分による売得金乃至見積額は金二十四万百六十円で到底右租税債務を完納することはできないものである。

(七)  原告は右訴外会社と取引上密接な関係を有し、前述第二、の一、の(二)の如く原告取締役御厨、機部は訴外会社を救済するためその肩替り経営を目的に設立された日本油業株式会社の発起人となり、同社設立後は同社の監査役、取締役に就任したのであるから、原告は防府油脂工業株式会社に前述第二、の二、の(六)の如き多額の負債があり、多額の国税の滞納のあること、同会社の動産が滞納処分を受けたこと、同会社が本件土地の取得登記を得たときは徳山税務署長が直ちに滞納処分としてこれを差押える事情にあつたことも充分知悉していたものである。

以上のように昭和二十六年六月九日の右訴外会社、原告間の本件土地の代物弁済の予約は国税滞納処分を免れるため右両会社が相通じてなした虚偽の意思表示であつて無効である。従つて徳山税務署長が滞納処分として本件土地を差押えたことは適法であつてその差押登記の抹消を求める原告の本訴請求は失当である。

第三、被告は反訴として主文第一、二項同旨の判決を求め、その請求原因として仮りに原告、訴外会社間の本件土地の代物弁済契約が虚偽表示でないとすれば、

一、前述第二、の二、の(六)のごとく右訴外会社には多額の債務があり多額の国税の滞納があり

二、前述第二、の二、の(五)の如く本件土地の時価は昭和二十六年六月頃には約百八十万円に騰貴しており

三、前述第二、の二、の(七)の如く原告と訴外会社は密接な関係にあつたものであるから

右訴外会社が原告に対する金五十七万九千四十円の債務のため本件土地を代物弁済に供したことは、徳山税務署長の国税滞納処分を免れるため故意になしたものであり、又原告は右代物弁済が右滞納処分を免れるためなされたものであることを知つていたものであるから、被告は国税徴収法第十五条により、右代物弁済契約の取消を求め、右取消により原告がなした昭和二十六年八月十三日の所有権移転登記はその原因を欠くに到り、原告は被告に対しその抹消登記手続をする義務があるからその抹消手続を求めるため反訴請求に及ぶと述べた。

(立証省略)

三、理  由

本件土地を訴外防府油脂工業株式会社が昭和二十五年八月二日国から買受けて取得し、翌二十六年六月十五日その旨の登記を了し、原告と右訴外会社との間の同年六月九日原告が右会社に対し本件土地の買受代金として貸付けた債権金五十七万九千四十円の弁済期を同年七月十日とし、右期日までに履行しないときは弁済に代えて本件土地の所有権を原告に移転するとの約旨に基き、原告が同年六月十九日右所有権移転請求権保全のため原告名義への所有権移転の仮登記(山口地方法務局徳山支局受付第三、六三三号)を経由し、翌二十日徳山税務署長が右訴外会社の滞納処分として本件土地を差押えその差押登記(同支局受付第三、六五七号)をし、次いで原告が右約旨に基き同年八月十三日本件土地につき代物弁済による所有権移転の本登記(同支局第四、四三七号)を了したこと。原告が同年八月十四日徳山税務署長に対し国税徴収法第十四条による差押財産の取戻方申出で更に同月三十日同署長の許に出頭具陳したが、同署長が右差押を解放しなかつたことについては当事者間に争がない。

よつて先づ被告の本訴は国税徴収法第三十一条の二乃至同条の四により再調査、審査の請求手続を経なければ訴を提起できないものであるとの本案前の抗弁について判断するに、原告の本訴請求は徳山税務署長の滞納処分たる差押の登記は原告の所有権移転の本登記を了した仮登記の後であるから、不動産登記法第七条により原告の右本登記が右署長の右差押登記よりも先順位となるので、右差押登記は原告の右本登記に対抗できないが右差押登記があつては原告の所有権に対する障害となるからその抹消を求めるという不動産登記法上の権利に基く請求であつて、徳山税務署長の不動産差押なる滞納処分の取消を求める請求でないことは原告の主張自体に徴し疑ない。しかして右の如き場合国税徴収法第十四条において所有権を主張する第三者の利益のため行政的手続で簡易にその差押えられて財産の取戻を請求し得ることが規定せられているがこの行政的手続で第三者がその取戻をなし得ない場合、同法第三十一条の二乃至同条の四の再調査、審査の請求手続を経ることを要するかというに、右法条は滞納処分等行政処分の取消変更を求める場合、経ることを要する手続であり右のような不動産登記法上の権利に基き差押登記の抹消を求めるような場合には右手続を履践することはこれを必要としない。従て被告のこの点に関する抗弁は採用し得ない。又本訴は右の如く不動産登記法の権利に基き差押登記の抹消を求めるものであつて所謂抗告訴訟ではないから被告となるべき者は処分庁である徳山税務署長ではなく国であるべきであつて、国を被告とした本訴請求は被告適格を欠き不適法であるとの被告抗弁も亦採用し得ない。そこで本案について審究するに、先ず原告及び訴外防府油脂工業株式会社間の右訴外会社の原告に対する金五十七万九千四十円の債務を弁済しないときは弁済に代えて本件土地の所有権を原告に移転する旨の契約締結の時期について、原告は昭和二十五年八月二日又はそれ以前であると主張し、被告は翌二十六年六月九日であると抗争するから先づこの点について判断するに、

一、証人西野正彦、田村静雄の各証言及び右西野の証言により成立を認めうる乙第一号証を綜合すれば、右訴外会社が本件土地を国から買受ける契約においては右訴外会社は買受後十年間国に無断で本件土地の使用目的を変更、廃止することを禁ぜられ、これに違反した場合は国は無条件で契約を解除しうる旨の特約があつたことが認められること。

二、当事者間に争のない原告が昭和二十五年八月二日訴外会社に貸付けた債権については当初利息弁済期の定めのなかつたこと、この争のない事実と成立に争のない乙第九、第十号証の二、及び第十一号証及び証人長野澄夫(後記措信しない部分を除く)藤川国雄、西野正彦、田村静雄の各証言並に弁論の全趣旨を綜合すれば、右訴外会社は昭和二十五年六月頃財政状態悪く、事業を営むことができない状態であつたので、同会社の事業を代行しこれを引継ぐ目的で、同年七月同会社の製油を販売していた原告の代表取締役御厨実義、同取締役磯部喜一及び右訴外会社専務取締役長野澄夫等が発起人となり日本油業株式会社を設立したが当時訴外防府油脂工業株式会社は本件土地を国から買受けることになつており、右買受代金の調達に困窮していたので、同会社の事業の代行受継を目的として設立された日本油業株式会社が右買受代金を融通することになり、同会社の取締役、監査役に就任した磯部喜一、御厨実義等が取締役の地位にある原告において日本油業及び防府油脂工業の両会社の社運発展のために右買受代金を利息弁済期の定めなく日本油業株式会社に貸付け同社から防府油脂工業株式会社に貸付けたことが認められることなどに鑑みるときは本件土地を原告の右貸付金に対し代物弁済に供するときは、防府油脂工業株式会社は国から右特約に基き本件土地の売買を解除される危険があり、このことは右防府油脂工業株式会社は勿論、原告の代表取締役、取締役等が右会社事業の代行受継を目的として設立した日本油業株式会社の社運発展に何等の利益を与えるものでなく原告も亦これにより益するところはないのであるから原告が右買受代金を貸付けた当初は原告主張の如き代物弁済の予約はなかつたものと認むべく寧ろ成立に争のない甲第一号証及び弁論の全趣旨を綜合して認められるように昭和二十六年六月九日に始めて原告の右貸付金五十七万九千四十円を防府油脂工業株式会社が同年七月十日までに弁済しないときはその弁済に代えて本件土地の所有権を移転する旨の契約がなされたものと認定するを相当とする。右認定に反する証人岩本得造、長野澄夫(前記措信する部分を除く)西見毅、国吉省三の各証言は措信できないし他に右認定を覆すに足る資料はない。

三、そして被告は右昭和二十六年六月九日の右契約は虚偽表示であると抗弁するからこの点について判断するに、

(一)  原告が昭和二十五年八月二日本件土地の買受代金として貸付けた債権には当初利息弁済期の定めがなかつたこと、右同二十六年六月九日の契約は右原告の貸付金を防府油脂工業株式会社が同年七月十日までに弁済しないときは弁済に代えて本件土地の所有権を原告に移転するものであつて弁済期は僅か一ケ月であること及び

(二)  本件土地の面積が計六反九歩(千八百九坪)で防府油脂工業株式会社が国から買受けた価額は五十七万九千四十円であることについてはいずれも当事者間に争のないこと。

(三)  証人西野正彦、田村静雄、波野嘉一の各証言を綜合すると、国は本件土地を随意契約で右防府油脂工業株式会社に売渡したもので、その売買価格は競争入札に比し概ね低廉な価額であり当時類地は坪当り七百円から千円で売買されていたことが認められること。

(四)  証人波野嘉一の証言によれば現在類地は国から払下げた価額の約二、三倍に騰貴していることが認められること。

そして成立に争ない乙第三、第四、第七号証及び同第五号証の一乃至四並に証人岩本得造、松田正治の各証言によりその成立を認められる乙第六号証及び右各証人及び戸倉大作の各証言を綜合して認められる。

(五)  昭和二十五年九月三十日現在防府油脂工業株式会社の負債は、四百六万余円(乙第六号証の負債合計と資産合計との差額)であること、及び同二十六年六月二十日現在右会社の国税滞納額は金百六十六万余円であること。

(六)  徳山税務署長は同二十五年二月十日右会社所有のギヤーポンプ外十八点の動産及び電話加入権を、同年九月六日右会社の銀行預金を滞納処分として差押え、同年十一月二十二日訴外前田茂の右会社に対する金五百万円の債権に基く有体動産強制競売の配当に加入したこと。及び

(七)  昭和二十六年六月二十日当時の右会社の資産は約五、六万円にすぎなかつたこと。

及び前示一、二に認定した事実を綜合して考えると(以上認定に反する措信すべき証拠はない)右防府油脂工業株式会社の経営は窮迫し事業の運営もできずその事業を代行受継する目的で設立した日本油業株式会社も又社運振はず、ために右防府油脂工業株式会社の財政状態は悪化の一途を辿り、国税滞納額及び負債額は漸次膨脹してきたが、同会社が国から買受けた本件土地の所有権の取得登記を了したときは、この土地も同会社の負債及び滞納国税のために処分される運命にあることは明らかであるので、右会社と密接な関係にあり、本件土地の買受代金も貸付ける等右会社の社運挽回に努めた原告に、右会社が右本件土地の買受代金債務を弁済することは到底困難なところから右会社は原告に本件土地を代物として弁済し原告に損害を生ぜさせないようにしたものと認められ右代物弁済予約を虚偽表示であるとすることは相当でない。仍て被告の右抗弁は採ることができない。

次に被告は反訴として右昭和二十六年六月九日の原告、訴外会社間の右契約は、徳山税務署長の国税滞納処分を免れるため、故意になされたものであり、又原告もその情を知つていたものであるから国税徴収法第十五条により国はその取消を求めうべきものであると主張するからこの点について判断するに、前示二、及び三、の(一)(二)(三)(四)(五)(六)(七)認定の各資料を綜合すれば、徳山税務署長が右会社に対し本件差押をなすまでに既に二回滞納処分を執行しており、しかも尚国税滞納額は昭和二十六年六月二十日現在百六十六万余円の多額に達するに反し、その頃右会社の資産は約五、六万円にすぎず、本件土地についても滞納処分をうけることは容易に看取されるのでその処分前にその処分を免れる目的で故意に原告に対する債務五十七万九千四十円の代物弁済として当時右債務額の約二、三倍の価額に騰貴していた本件土地の所有権を原告へ移転したこと。及び原告は右会社とは密接な関係にありその経営状態は知悉しておつたのであるから本件滞納処分を免れるため右会社が原告に本件土地を代物弁済に供したことはこれを認識していたことを認定することができる。そうすると右原告、防府油脂工業株式会社間の昭和二十六年六月九日の契約における右訴外会社の代物弁済は国税徴収法第十五条にいわゆる滞納者(右訴外会社)が財産の差押を免れるため故意にその財産を譲渡したという行為に該当しその譲受人が当時その情を知つていたことになるから国には右行為の取消を求める権利があり、その取消されたときは右契約に基く昭和二十三年八月十三日の所有権移転登記はその原因を欠くに到るから原告は被告に対し右登記の抹消をしなければならぬ義務があるといわねばならぬものである。

以上のように被告の反訴請求は理由があるからこれを認容することとし、原告の本訴請求は被告の反訴請求の認容により理由がないことになるからこれを失当として排斥し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 御園生忠男 黒川四海 大前邦道)

(別紙目録省略)

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